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野口 哲平さん

【みらいえ こどもと家族のクリニック】

2022年11月、高島本町に小児科・内科のクリニック「みらいえ」を開院した小児科医の野口哲平さん。
静岡県立こども病院や沼津市立病院でさまざまな経験を積まれた野口さん。 学生のころから持つ「医学に普段から親しみを持ってもらい、予防医学を大切にしたい」という思いや、沼津という地域でどのように地域医療を育んでいきたいか、熱い思いを語ってくださいました!


子どもに関わる仕事がしたい!という思いから小児科の道へ


───私たちは野口さんの講演を聞かせていただいたことがありますが、ほぼ初めましてですね。よろしくお願いいたします。
早速ですが野口さんは沼津ご出身なんですか?

そうです。第五小学校の出身です。

───第五小!それなら、ご実家もこの辺なんですか?

そうなんです。
中学校、高校は静岡市にある学校で寮に入っていたのですが、地元はこっちなんです。

───最初に、医療というか小児科を目指された経緯やきっかけがあれば聞きたいです。いつぐらいから思われてたんですか?
はっきり覚えてないんですが、中学~高校で『子どもに関わる仕事』がしたいな、と思ったんです。そこから色々な選択肢の中で医療、小児科を選びました。

───へぇー!
医師の方って、まずは医学部に入ってから何科にしようと決めるイメージでした。『子どもに関わる仕事』が根幹なのですね。

ええ。ありがたいことに、中高生のときにいい大人と関わる機会が多かったんです。自分が大人になったときにこうやって子どもに関われたらいいなと。
僕はラグビーをやっていたので怪我をすることも多くて医療関係の大人に触れていたというのも影響していると思います。


医学を馴染みやすいものにしていきたい

※打合せ中に撮影しています


-----小児科を選択されて、そこからさらに新生児集中治療(NICU)や乳児保健の専門へ。
新生児集中治療(NICU)というのが、いわゆる早産児や低出生体重児など小さく生まれた子たちの治療で、乳児保健というのが予防医学的な分野で合っていますでしょうか?

そうですね。
乳児保健の話から言うと、医者が病気になった人を治療するのは当たり前なんですけども、僕は病気にならないようにすることのほうが価値が高いと思っています。
医学に対して敷居をの高さを感じないでほしい、もっと馴染みやすいものであってほしいと思っていて。

生まれて数年のうちは病院に予防接種なので多く病院へ来られ
予防医学の観点で関われるので、僕にとってはとても意義を感じています。

あとは、身体の機能が未熟な状態で生まれた子たちは、どうしてもいろんな病気が襲いかかる可能性が高くなってしまう。その子たちが病気にならないようにコントロールしていく。
"病気ではないんだけれど、身体の機能に弱さを抱える子"たちをどう守るかというところにすごく関心を持ったんです。

───患者さんと密に、定期的に会っていくイメージでしょうか。

その必要がある方とだけ、やっていくという感じです。
必要でない方に必要ない医療はしたくないので、そこはちゃんと見極めようと思っています。

───静岡県立こども病院で働かれていたと伺いましたが、新生児集中治療に従事されていたなかで、赤ちゃんの手術もたくさんあったかと思うのですが、産まれたての子の執刀は小児科さんが行うんですか?外科医さんなのですか?

外科医ですね。静岡県立こども病院は特に心臓の治療を得意とする病院でした。
心臓でしたら「心臓外科医」っていう医者のグループがいて、その中でも特に子どもの心臓手術のトレーニングを重ねている「小児心臓外科医」っていう人たちがいます。

ただ、手術は手術をする人だけじゃ全然できないんです。
新生児と呼ばれる赤ちゃんの心臓の手術をするには、40人くらいの人が関わるんです。

───わぁー、40人もですか。

心臓外科医、心臓外科医の助手、心臓外科医として前もって事前情報を集める人、麻酔をかける人、麻酔を手伝う人、機械を扱う人、全身の管理をする人、手術後泊まり込みで診る人などなど…

───大手術なんですね…

赤ちゃんの場合は全てが大手術です。
こういう手術は、一言で言えるようなものではないんですが、命懸けの提案をすることになります。提案をするからには全ての情報材料を用意する。
それでも、その材料で根拠を持ってお話しをするときもあるし、根拠は無いけれど決めなければいけない場面もあるんですね。

この子は幸い術後が良く、みるみる元気になって、退院されていきました。(※保護者から許可をいただいた写真を見せてもらう)
病気といっても、切った治ったではなくて、その前後のほうが本人もご家族も大変で、そこをつきっきりで支えるのが新生児集中治療という場所です。



静岡県東部に新たな医療の拠点




───そんな第一線の場所にいた野口さんが、沼津に開院したのはどうしてですか?

そうですね。
手術をしたあとに完全に治ってしまえばいいのですが、退院しても生きていく上で病気と付き合っていかなければいけない患者さんはたくさんいるんです。

そうすると例えば静岡県立こども病院は静岡県中部にあるのですが、東部の端っこからでも、術後そこまで通わなきゃいけないんですね。
勤めている当時も下田や沼津からいっぱい患者さんが通ってたんです。

そこで、新生児集中治療や乳児保健の大体のことがつかめている私が、沼津にいれば患者さんやご家族の負担を減らせるんじゃないかなと思って、沼津で開院することにしたんです。

あとは人脈というか縁ですね。
例えば何かが起こったとき、僕は起こった様子を言葉にして、こども病院や市立病院の医師へ伝えることができる。提携病院側も自病院へ来てもらう必要があるかどうか医者間で判断ができる。

───東部の患者さんにとっては、とても救いになる開院ですね

自分の経験や人脈が静岡県東部に少しでもプラスになるならば、という発想で沼津に戻ってきました。


これからの、沼津ならではの自助/共助/公助を


───事前のやりとりで伺っていた、自助/共助/公助だったり、時代にあった子育てという話が、これまで話して下さった"医療になじみを持ってほしい"だったり、"地域の患者さんを見られるように"という話と少し繋がるのかなと思いましたが、どうでしょうか?

そうですね。さっきの話の続きになりますけど『物理的な距離』って人間には無視できないところがあるんです。

───遠いと行くのが大変ということですか?

遠い大病院の先生と近所の先生とどっちが気を楽にやり取りしやすいか?
話の内容もたぶん変わってくると思うんですよ。
やりとりが気楽な方が、これも聞いとこうかな、ということも聞けると思うんですよね。

───あぁ、たしかに!近所のクリニック(診療所)の先生のほうがなんでも話しやすい気がします。

そういうところも狙いんですよ。病気になる前に聞いときなって。

───特に病気を抱えているお子さんやその保護者さんは、病院に連れて行くのがとても大変だと思うんです。遠いところしか選択肢が無いとなると、ちょっと気になることがあるけどもう少し様子見るか…ってなっちゃうかもしれない。
距離の近さって、その物理的な比較以上に、心理的な負担がぐぐっと変わりますね。

自助/共助/公助という話だと、何かが起きたとか心配事があったときに、最初はやっぱりお父さんやお母さん、家族でどうするか考えますよね。
それが自助。

共助はママ友、親戚、近所の人。
ところが今の時代、そういうつながりが希薄ですよね。自助の次に頼る人があんまりいない時代なのかなと思います。
かといって、専門的な大病院に行くのはハードルが高いし、ここまで行くと公助という存在になる。

その中では、僕のような存在を”共助"の中に含めてほしいと思ってるんです。
この時代だからこそ、近所のおじさんの延長ぐらいに捉えてもらえたらいいなと思います。

───日常の暮らしの中で一緒に伴走してくれるような感じですね



大変な人に大変なことをさせない。

入っていきやすいクリニックのかたち


───クリニックの設計に野口さんの考えが反映されていると伺いました。

そうですね。ご案内します。
こちらがうちの一番特殊な場所で「だっこ」という部屋です。
ワクチン接種と健診だけの部屋です。

保護者さんが入ってきたら、このまま座ってもらって、受付も受診票もここで書いてもらいます。ワクチンは僕がここに打ちにきます。

───じゃあワクチン打ちに来たらずっとここに座ってれば全部終わるんですか?

そうです。隣を気にしないで待っていられるように仕切っています。

───小さい子と出かけると荷物も多いし、子どもは自由に動き出したり泣いたり、ちょっとの移動が大変だから嬉しいです!

子供を育てるってだけで大変じゃないですか。
だから、その大変な人たちが極力病院にきて大変じゃないようにしたかったんです。
赤ちゃんを抱っこして待っててもらって、あとは医師や看護師がここに来てすべての診療が済むようにしています。
正直、経営的には人数配置が勿体無いと仰られる方もいるんですが、私はこういう診療がやりたかった。

───先生が膝をつく形になるんですね。あっ、けっこう生地の色が薄くなって…笑(写真を撮らせてもらう編集者)
ここ開院して約半年ですが、このズボン3枚目です笑

───膝に穴開いちゃうんですか!

そうです笑


辛いときに来る病院だからこそ

少しでも心の余裕を作る手伝いをしたい


もう一つの特徴が、感染管理です。
外に受付窓があって、感染症状の方はこちらの診療室に入ってもらいます。
左の部分がインフルエンザなどの方、向こうがそうでなかった風邪の人たち、その向こうが赤ちゃんたちっていう風になっています。

───全部分けられてる。

病院で病気をもらっちゃうことになると、最初に申し上げた「病気になる前においでよ」が成り立たなくなってしまうので必要なんです。
この空間は僕がしたいことを実現するための道具です。

───なるほど。

それから、胃腸炎って地獄になるじゃないですか。
一人吐き始めると家族全員が吐き始めてぐったりして。
飲み薬を出してもその日は全然良くならない。
胃腸炎の時に飲み薬を飲んでも全部戻しちゃうことばかりですし
口から栄養を取れない人たちにその椅子で点滴してもらうんです。

お子さんはもちろん、連れてきた親御さんたちも一緒に。少しでも回復してもらいたいので。
  ※点滴を受けている子どもを抱っこして、母も点滴をうける様子を再現する編集者
(小さな子は一人でベッドで横になると不安がるので、抱っこしながら点滴することが多いそうです)

───うちの子も赤ちゃんのとき胃腸炎で、抱っこしながらゴボゴボ出してたな…

で、小さなことなんですが、点滴に1時間くらいかかりますので、もしこの場で吐いても時間があれば、ここの洗濯機で汚れた衣類を洗ってあげるようにしています。
吐いたものをビニール袋に入れて自宅に持って帰るのもしんどいだろうなと。

───洗ってくれるんですか。

ガス乾燥機なんで20分くらいで乾きますし、70℃を超えるのでウイルスも死滅します。

───(ゆうこ)子どもが青ざめてゴボゴボしてたり自分もヤバそうな予感がしてるときに次亜塩素酸とか煮沸とかできずに、結局捨てたりしてました。
自分も子どももぐったりしてて…ってときに洗濯なんかしてもらったら私泣いちゃうな。
───(ちさ)わかる。泣いちゃう。

大したことじゃないんです。簡単。洗濯機に入れてボタン押すだけなんで。
でも「少しでもラクにしてあげられたらいいな」という気持ちでいます。

───患者さんのためを思うほど、医師やスタッフの方はその分大変にはなっていると思うんですが、色々と拝見して、道具とか構造で工夫を行っているのがよくわかりました。

幸いなことにスタッフがとても良い方ばっかりなんです。
方針を理解して動いてくれています。

───私たちは移住者で頼る先が少ないのもあって、親子でぐったりしてるとき、おおげさなんだけど孤独を感じて悲観的になってしまう。
野口さんは簡単なこととおっしゃっていたけど、なにかの"救い"みたいなものがあるだけで、すごく明るい気持ちになって大変でもなんとか踏ん張れる。

親の心の余裕の有無は、子どもに向かいます。
親に心理的・時間的余裕がないと子どもに対してもどうしても気が回りきらないところを、ちょっとだけでもいいから余裕を作ってあげて、ちょっとだけでも子どもにも親のできた余裕が優しさとして伝わってくれればいいなと。
それが道具でボタンを押すだけでできることならやりますよね。

───本当そう。洗濯っていう時間的な余裕だけじゃないと思います。

もちろんバタバタしてできないときもあるんですが、できる範囲でやっています。


地域医療を担うひとりの大人として

冷静かつ柔軟な判断をしていきたい


───11月から開院されて、地域で顔見知りの子どもは増えましたか?

1日80人くらい診るので、単純に計算すると1万人くらいですね。
道端で声をかけてくれる子もいます。
どうしても顔と診療内容に集中する仕事なので名前が覚えきれないのが申し訳ないですが。

───(ゆうこ)その数は覚えられませんね笑
でも、子どもたち側がお医者さんが近所に住んでいる「地域の大人のひとり」なんだと認識しているのはすごく良いことだなと思いました。
長い目で見て地域医療の大事さが培われていくんだろうな。

───(ちさ)ちなみに、小児科って何歳までですか?

一般的には中学生まで、となっています。
ケースバイケースですけれども、僕のところは障害なども含めその患者さんに合った形で小児科の延長で診れる方は診療します。
公的な病院ですと受診年齢もルールで決まっていますが、ここは僕のやりたいように決められる。

───(ゆうこ)フルオーダーなんですね。

大切にしているのは、「医療がその人に必要かどうか」と「医師が僕がベストかどうか」です。

───(ちさ)目の前の患者さんにとって自分がベストな医師かどうか、という判断もすごく俯瞰的で冷静ですね。

そういう考え方になったきっかけは僕の師匠にあたる人の影響です。
いまは国境なき医師団の会長をされている方です。

───国境なき医師団の。すごい方に師事されてたんですね。

患者さんご本人をしっかり見つめて対話して診療するとき、俯瞰した視点で状況や可能性を熟慮するとき、両方を作る。
その考えをその人が徹底的に教えてくれました。


事態が起きる"前"にみんなで医療を考えておく。

沼津ならそれができると思う

ゆうこ家は外にしばらく出ていないと「風邪引いてたー?」とご近所さんから声をかけられます
───このインタビューは、保護者の方はもちろんなんですが、教育関係者やいろんな形で地域のことに関わる大人に読んでいただいています。
そんな読者像を想像していただきながらお考えを聞きたいのですが、医療の現場にいる野口さんから見て沼津のまちがこうなっていったらいいなというイメージはありますか?

僕の感じ方ではありますが、沼津は「横のつながり」つまり「地域のネットワーク」が強いと思うんです。

人口が多くまちに出た時に顔見知りを探す方が難しく感じる地域もありますが、沼津は顔見知りが多い地域だと思います。
それは沼津の強みだと思うんです。
だからそれがさっきお話しした「共助」や「大変な病気になる前に診療する」ということに繋がるといいなと思います。

あと日本は傾向として、"念のためやめときましょう"ということが多く感じます。
例えば、風邪をひいて熱が出た。でもその後5〜6日でウイルスはほとんどいなくなって感染力は低くなります。
ただ、咳や鼻水が1週間でゼロになることはほとんど無いんです。

それでも少しでも症状があったら"念のため家にいましょう"となる。
制限している社会生活が心身に影響を与える場合もある、という見方もしてほしいなと思います。正しい知識と正しいリスクの取り方を、親もですが学校や行政にも把握しておいてほしいですね。

───それぞれの立場上、安全性を担保することに傾きがちなのかもしれません。でも生活や経験や成長ということも同時に考える必要があると私も思います。
手間がかかることだけど、場合ごとに多面的な情報をちゃんと見つめて判断することを諦めないようにしたいなと思っています。

そうですね。
そのためには、なにか事態が起きる"前"にみんなで考えておく必要があるんです。
何も知らないで急に判断を迫られたら「安全性を優先して」って答えざるを得なくなってしまうんですよね。
だから平時に色々な知識をつけて、団体内で話をしておくことがすごく重要である、というのは伝えていきたいと思っています。

───なるほど。すごく納得がいきました。
問題が起きていないときに小さな知識を積み重ねておくことで、いざというときに判断ができるようになるんですね。

僕ができる小さな努力としては、診察室でずっといっぱい喋るようにしています。来てくれたときにいっぱい情報を伝えて啓発しているつもりです。

でもそれだけでは足りないので、子育て支援センターなどで幼稚園・保育園や行政のスタッフの方向けに事実と根拠と一般的なリスクの取り方を伝えするようなことをやっていきたいと思っています。

───まさに地域の大人たちみんなで知識をつけていこうとされてるんですね。


****編集後記****
普段は仕事柄「先生」と呼ばれている野口さん。はぐくむ人の活動をご覧になって敢えて「野口さん」と呼んでくださいと言ってくださいました。

子どもたちの病気を診るときに、子ども本人やその保護者の心にも寄り添う姿が印象的でした。
穏やかな口調と表情でお話ししてくださり、とても真剣に真正面から地域医療に向き合っている野口さん。これからもいろんな形で関われたら嬉しいと感じました。
ありがとうございました!
みらいえ
こどもと家族のクリニック

住所:沼津市高島本町8-29
電話:055-924-1111











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