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平野 純子さん

【里山保育こまめ】


いつもパワフルな姿が印象的な平野さん(愛称はずんずん)。 ずんずんが運営する里山保育こまめは沼津市初の森のようちえん。
アクティブなイメージの「森のようちえん」のなかで、じっくりじっくり子どもの声を拾う様子が見えてきた!

【2歳・3歳が中心のこまめ保育】


──こまめは基本的に2歳と3歳までですよね。
おやこまめは0,1歳。

"森のようちえん"を調べてみたら、定義としては0~7歳と書いてありました。
こまめは2~3歳が中心ですが、そこはどんな考えからですか?

はじめ立ち上げた時には「親子の活動ができればいい」と思ってまずその対象にしたんだけど、やっていくうちに2歳とか3歳って自分でどんどんできるかも!?と感じて。
子どもたちを預かって、遊びや活動をしてみようかなと思った。
あとは4~6歳はもう園に行ってる子が多いからね。


【幼少期を大事にしたい思いと自然学校と。森のようちえんとの出会い】


──愛鷹運動公園を活動の場にしたのはなぜですか?

単純に家が近かったのと、自分が小さい頃から行ってたんだよね。
あと、民間で面白いことやれる人いませんかっていう募集もあったんだよね。

──小さい頃から遊びに行っていた馴染みがあったんですね。
そうそう。素敵なとこだって知ってたから。
子どもたちが遊ぶにもいいところだし、アクセスもいい。

──そもそも、子どもと関わる仕事をしたいと思ったのはきっかけがありましたか?
こまめの前は小学校の教員をやってたんだけど、
まずはやっぱり子どもと遊ぶのが好きだったから。
単純に子どもと関わる仕事ができたらいいなと思ったの。

──ふむふむ。そしてその後、小学校からこまめに、活動の場を変えたんですね。

うん。
子どもっちってもっとできるんじゃないかな、本当はもっとパワーもってんじゃないかなって感じて、それを開花させてあげたいって思った。

教員をしているときから、
グラウンドで思いっきり遊んだあと、畑でたくさんの生き物を捕まえたあとや、
作物を収穫したあとの授業では、子どもたちの声が大きくなったり、友だちとのコミュニケーションが増えたりすることに気づいたの。
だからやっぱり自然には、人のこころをほぐすちから、みなぎるパワーや考えをうみだすちからがあるんだと実感したんだよね。

自分自身が自然遊びが好きで、ゆくゆくは自然学校をつくりたいと考えていたけど、幼少期の子どもの在り方をだいじにする「森のようちえん」という存在を知って、「これだ!」と思ったのね。

それで、準備もなにもないまま、強い気持ちが自分を動かして退職ちゃったんだよね笑


【子どもの声をいっぱい拾って、何を考えているかを知る】

──どこか参考にしたり見学などはしましたか?
静岡県内にも結構あったので見に行ったよ。
岐阜県の有名なところに指導者研修に行ったり。

日本ではじめて森のようちえんを作った人が
森のようちえんの全国のネットワークの代表をやってて、その人の研修を受けた。
子どもを中心とした教育っていうのを実践してる方だったから。

──子どもを中心とした教育。
私も子どもと森で遊ぶの大好きで。凸凹道とかもいっぱいあるから体も動かせるし。

ただ見学をさせてもらって、もちろん泥んことかのフィジカル面もとても楽しそうだったけど、
それ以上に、自然っていうちょっと予測不可能な中で子どもたちが色々考えたり、それをなんとか伝えたりする様子が印象に残りましたね。

そう見てもらえたなら嬉しいな。
大人って気づかないうちに自分の手のひらで子供を転がそうとする教育っていうのをやりがちなんだけど、そうじゃなくて。
子どもの声をいっぱい拾って、どんなふうにその子たちの力を伸ばしてあげられるかとか、
元から持ってる力を引き出してあげるかっていうところを、その人(森のようちえんネットワーク代表の方)の話とか活動によって知らされた部分があったな。

【納得できたから行動できる。伝えたいから言葉を考える~見学エピソード①~】

みんなで"木のトンネル"くぐって畑の方に行こう!と言ったのに
AちゃんとBくんが別の方向に行ってしまった。二人が向かう先は車道なので危険である。
他の子は"木のトンネル"の向こうに行きたい。

そのときこまめスタッフは、AちゃんBくん2人に自分でこちらに戻ってくるように声をかけ続けた。
そっちは違うよと抱っこして連れてくれば1分で済むが、それをしなかった。
二人に追いついたスタッフがゆっくりと話し、2人は納得して戻ってきた。
8分間の出来事だった。その間他の子どもたちも騒ぐこともなくしっかりと待ち、
ある子は自分が説得して連れてくると名乗りをあげていた。
<>

──少なくとも大人はあのトンネルの場所も、トンネルを抜けるといつものお店屋さん遊びをするところがあるとわかっているけど、まず子どもたちに「お店屋さんの場所に連れてって」と言って誘導してもらってましたね。

トンネルを抜けて畑に行くっていうコースはもうみんな知ってるんだよね笑

朝集まったときに朝の会があって、ここで1人になってしまうことの危険性も話すんだよね。何よりもやっぱ、命が大事ということ。

大事にしないともう大好きなお母さんにも会えないし、
みんなが自分の命を自分で守ることがすごい大事だよっていうことや
あと仲間と一緒にいればいつでも助けてあげられるよっていうことも伝える。

AちゃんとBくんのときは、あなたの存在がすごい大事だよということと、
そばにいないとお母さんに連絡も取れないよって
話をしたら顔がパッとなって彼らは戻る決意をした。

怪我がなくてよかった、無事に戻ってきてよかったっていう声かけを、
私たちはしっかりその子に伝えるようにしてる。

──ただ『〇〇しちゃいけない』ではなくて、なんでダメなのかをいつもしっかり説明しているんですね。
あの場面、10分もなかったけどその間にほかの子どもたちもちょっと心配したり、
どうしたらいいかなと考えてましたね。
結果論で言えば10分くらい私も待てるんだけど、でもどうなるのかわからないからこそ、ついつい抱っこして連れてきてしまいそう。

手を引いたりとか、抱っこして連れてくるとか、そういう手もあるのかもしれないけど、でもそれだと彼らの心が腑に落ちない。
やっぱりどこかで納得することが大事。
危険とか、仲間が待ってるとか、そういう視野の広い考えを持てるといいなって思ってる。
そういうところも目的として持って、その子の意見を尊重する。
そこは大事にして、どうしたかったのかを聞いてるかな。

──ずんずんが「お話して教えて」って言ったらちゃんと言葉を探して伝えてましたね。

そう。そしたら子どもも伝えようとお話する。
言葉にしたらちゃんと伝わるんだっていうのも身についていく。
そうすると言葉数が増える。
言葉がこんなに増えてびっくりしますって親御さんも結構いて、それは嬉しい。


【大人が待つことの大事さ。自分でできた達成感を~見学エピソード②~】

木のトンネルをくぐっているとき何人かの子は転んだ。
その中でもEちゃんは何度も転んで、スタッフに手を伸ばして助けを求めた。
スタッフは立ち上がり方を説明して手は貸さずじっと待った。
<>

──ああやって転んだ時は手を出さないっていうのはこまめルールとして決めているんですか?

ルールではないけど、基本は近くで見守りをするくらい。
その時の状況やひとりひとりのちからに合わせて、サポートするときもあるよ。
あとは他の子がこう助けてくれる場面もあるね。
──まさにFくんが手を貸してあげようとしていました。

Eちゃんはやだって言ってたでしょ笑 大人に助けて欲しいみたいなときもあるんだろうね。

──私見てて、1,2回だったら見守るかもしれないけど5回6回となるとさすがに手を貸しちゃいそう、と思いました。
あの場面でじっと見守り待ち続けるっていうのは結構大人側の忍耐がいるなと。

うんうん。

──でもぐずぐず言いながらも立ち上がって、畑の方に着いたら楽しそうに走っていって、お茶飲んですっかり復活してましたね笑

うんうん。やっぱり自分でできたっていう達成感を感じるよね。
自分の力でここまで歩けるんだっていうことを自分で知る。
多分連れてっちゃった方が早いって、大人が楽だからなんだよね。

カリキュラムを持たないっていうのはそういうところを大事にしたいっていうのもあったの。
──待つ時間を持てる体制なんですね。


(つづき)
うん。エピソード①で待ってた方の子どもたちもだけど、
待つっていうのは子どもたちが持ってる力だと思うんだけどね。
どちらかというと私たち大人が急いじゃう。
どの家庭だって忙しいから、いつでも子どもを待つのは難しい。
でも1日のうちのほんのちょっとの時間だけやってみるとか。

こまめはこういう場だからこそ全部の時間で待ったり
納得するまで会話したりということができる。
で、家に帰った時にこの力を落とさないためには、
子どもとコミュニケーションできる時間を
短時間でもとってみて、声を拾ってあげる時間を作るといいかも。

だから一緒にこの子たちを育てましょうっていう話をしてる。


【子ども同士の関わり合いが言葉と仲間意識を生む~見学エピソード③~】

お店屋さんコーナーでひとつしかないカゴが取り合いになった。
CちゃんはDちゃんから何も言わず取ろうとしたが、
Dちゃんは「貸してって言いな(言ったほうがいいよというニュアンス)」と諭していた。

他にもお店屋さんコーナーではおままごとの取り合いがあり、何人か泣いてしまうことがあった。
<>
──子ども同士の会話こそ言葉を選んでますよね。
こう言っても伝わらないならこうか?みたいな。

そうそう、Dちゃんみたいに貸してって言って欲しいとか、そういうのを子ども同士で伝え合ってる。

──泣いてるときに全然入っていかずに観察してましたね。
ああいう場面て、大人はもうただ純粋に、「どうしたの?」「どっちがなんて言わなきゃいけないのかな?」という介入をするのが一般的かなと思ったけど、あえて見守るという形をとっているんですね。

そうそう。全然入んない笑
両者が落ち着いた頃になって、あの時さ、みたいな話はしたりするよ。
子ども同士でちゃんと主張しあってるからね。

──Dちゃんが「貸してって言いな」って言ったみたいに。
そうそうそう。Cちゃんはすぐに言葉は出ない子だから、取ろうとしちゃったんだけど、Dちゃんはそうやっていきなりやられるのが嫌だっていうことを伝えた。

Cちゃんは今日はそこで貸してとは言えずにパーっと行っちゃったけどね。
今日はそこは乗り越えられなかったけど、またそれが後になって時差でできるってこともあるしね。

──なるほど、時差。

私たちは結果は急いでないから、時間をかけて子どもが何かを習得したりするのがいいと思ってる。
スタッフ同士でも「今インプットしてる時間だね」ってよく話してるんだけど、あるときアウトプットできる瞬間がある。

──結果を急いでない。
〇〇ができるようになりました!ってついつい探しがちですよね。
できるようになったことを見つけてあげたいっていう気持ちもあると思うんだけど。

でも、そのインプットとアウトプットの時差を待つのもまた大事なんですね。
そうだね。
終わりの時間くらいにね、エピソード②のEちゃんがまた転んだの。
そしたらまずAちゃんが来て「どうしたのー?Aちゃんいるから大丈夫だよ」って言ったの。
そのあとBくんが来て「ここ一人でいると危ないよ、車が来ちゃうよ」って話したの。
二人とも午前のあのときに言われたことを理解してるんだよね。
それを友達に伝えてあげた。一緒に行こう、みんなで行こうって言うの。

──AちゃんもBくんも、1人になったら危ないっていうのを1回じっくり見守り話してもらって納得したから、自分を通して友達に話すことができたわけですね。
たしかにそうだね。腑に落ちたんだろうね。


【こどもも大人も仲間の一員として過ごす】

あと、片付ける時にGくんがシートを畳もうとしたら、
やっぱりそのAちゃんとBくんが来てぱぱぱって畳んであげたのね。
そしたらGくんが「みんなありがとう」って言って。
そういう行動や言葉が自然に出るってことはすごい素敵だなと。

──子供同士の関わりが多いわけですね。
(先生と子ども)×子どもの人数ってなっているより、
子ども同士の関わりがあるほうが、先生にもゆとりが持てるように感じます。
確かにそうね。子ども同士の助け合いみたいなのが生まれる。
その辺は意識してます。
ほとんどお任せ。自然にやるもん。
やっぱり、相手のことを大事だって思うからやるんだろうね。

こまめは毎日メンバーが違うから、はじめましての子もいる。
だけどその日に会った子たち全員がこまめの仲間っていうのを認識してるんだよね。
だから1人になっちゃう子も置いていかないし、迎えに行く子もいる。

──スタッフさんもこまめの仲間の一人という感じがしました。
手を洗っているシーンとか、子どもだけかと思ったら(スタッフの)ハナさんも混じってたり。
視線も行動も。
すべて、教わる→教えられる人という関係ではない感じがしました。

そうだね。常に子どもの目線に合わせて、というのは意識しているから自然と一体化するのかも笑。
子どものわたしたちとの関係は、互いに「学びあう人」と考えていいのかもね。


【危険を自分で意識するー自分で考えて行動することに繋がる】

──今日は見学に行ったそばから、みんなどろんこべちゃべちゃでどろんこ滑り台をしてましたね。
そのときに体の使い方がとても上手だなと感じたんです。

坂を足で立つんじゃなくてお尻でずりずり滑ってもいいってなると、ちょっと怖さが減る気がします。
しゃがんじゃえばいいという発想があると立つのは危なそうというところも行けたりする。
そうそう!
こまめに来たばっかりの子はやっぱり怖かったり土を触りたくなかったりしてるけど何度か来て”遊び込んでいく”と動きが変わる。
自分の命を守る動きになっていく。
──自分の命を守る動きってとてもシンプルですね。
うん、そういうことをまさに体で覚えていって欲しい。


──愛鷹運動公園のような自然が多いところで小さい子どもたちと遊んでいると
ちょっと危ない場面もあると思いますが、どういうやり方をしているんですか?
毎朝場所の下見はしてるね。その上でスタッフで注意を分担してる。
朝の会や遊びながらも危険については子どもたちにちゃんと説明してる。

蜂も結構いるから、静かにしゃがんで頭を抱えてねという話をしておく。
前にお迎えのときにたまたま蜂が出たら、子どもたちがみんなサッとしゃがんで親御さんたちが感動してたね笑

危険を知るというのは、意識を常に外に向けているということ。
──誰かがやってくれると思ってると受け身の状態になりますもんね。
そうすると事故も怪我も多くなると思うんだよね。
注意力、意識っていうのを自分で持つことはとても大事かなと思ってる。
そういうのってこれからの行動にもつながってくると思うから。
誰かがやってくれるんじゃなくても考えて行動する、というのを私たちは目指している。

「自分で考え、自分で決めて行動する。」

【見ているだけでも体験になっている】


──ちょっと突っ込んだ話ですが、自然遊びやどろんこが好きじゃない子もいますか?
そういうときはどうしてしますか?
好きじゃない子もいるよ!
強制してやらせることはないかな。

ときどき声をかけて、水がかかるのが嫌だからあっちに行きたくないとかだったら、水入りたくなかったら入らなくていいんだよ、とか。

でもそうやって遊びに参加していないときも、けっこう見てるんだよね。
その遊びには興味があるから、誰々と誰々がなにしてたね、とか、

どうやってどろんこ滑り台滑ってるのかとかをしっかり見てる。

【子どものすることを見守りつつ、ときどき声を拾って】

──みんなどろんこ滑り台やってるときに、丘をぐんぐん登っていく子もいれば、ザックにゴロンってなってる子もいましたね。
それぞれの子に話もしつつ、ちょっと放っておきつつ、絶妙な距離感があるなと感じました。

あの場所だから許されるところもあるよね。
どんな場所かわかってるし、車も来ないし。

あとそれぞれの子の特性がわかってるから、今日はこういう気分なのかな、
この子はこういうときはこうしたほうがいいかな、というのをスタッフなりに判断してる。
だから取り立ててずっと声をかけるわけでもない。
で、ときどき何を考えてるのか聞いてみる。

──まさに、それぞれの子のそれぞれの声を拾っているんですね。
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自然のなかで仲間たちと遊ぶことを通して、子どもたちはまさに「心身ともに」成長していく。

子どもが納得いくまで体験させてあげたり、自分の言葉で伝えられるようになるまで待つ、
「静」の姿勢というのが印象に残りました。

里山保育こまめ
主な活動場所:愛鷹運動公園
TEL:090-2314-8181​

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